10年前の今日

10年前のちょうど今頃、松江の友人宅から山口の萩にあるユースホステルに向かっていた。朝、松江市の県庁にほど近い友人のマンションの外は曇天で、時折、霧雨が降っていた。大学生活最後の夏をバイクで日本を一周するという目標もこの頃には東日本を回りきり、沖縄を含めた西日本を一周するルートに差し掛かっていた。

小雨が降っていた松江から離れると天候は少しづつ回復していった。当初、海沿いを走るルートを予定していたが、道を間違えて国道9号線をひたすらまっすぐ走っていた。ルートを修正し、天候が回復した頃合いにレインコートを脱いだのは津和野周辺だったことを覚えている。萩に着いたのは何時頃だったろうか、もう忘れてしまったが、萩では天候は快晴になり、太陽はまだ高い位置にあった。
この日の目的地であるユースホステルは程なく見つかり、早めのチェックインを済ませてから、萩市内を歩いて散策したような記憶が薄らと残っているが、この旅行における萩市内の記憶はほとんど覚えていない。宿で起きた出来事だけが記憶に残っている。

夜11時少し前、宿の当直人だったか宿泊客だったかは定かでないが「大変なことになっている。」というような事を言われてロビーに呼び出されると何人かの宿泊客がテレビに釘付けになっていた。自分もまた、皆と同様に視線をテレビにやると、高層ビルと思われる構造物と青空が画面を二分しており、何が起こっているのか即座に理解できないような構図の映像が映し出されていた。

「アメリカで・・・」
「飛行機が・・・」

周りで一緒にテレビを見ている宿泊客の声とアナウンサーの実況が断片的な情報としてその映像への理解を少しづつ補完していった。間もなく、画面を黒い影が横切った。それが何なのかよくわからないほどの一瞬だった。

「2機目が・・・」
「・・・突入した模様・・・」

黒い影が何なのか知るために必要な説明はアナウンサーの実況から得ることができた。
「あー」とか「えー」とか言葉にならない声が耳から入ってくる。それは自分が発したかもしれないし、周りの宿泊客が発した声かもしれない。壁にかけられた時計にふと、視線をやると、夜の11時くらいだったのをはっきりと記憶している。それはまさしく、2機目の旅客機がニューヨークのワールドトレードセンターに突入した時間と符号する。その後、ビルが崩壊する映像をその場で見たのかどうか記憶が定かではない。見たかもしれないし、見ないですぐに寝床に入ったのかもしれない。その辺は記憶が曖昧になっているが、いずれにしても、ある時点まで繰り返し放映された突入と崩壊の映像は、非現実的な映画の世界の出来事を見ているような感覚だった。

翌朝、下関に向けて出発する前に、この宿で知り合い合部屋だった、同じくバイクで旅行中だった同年代のルームメイトとお別れの挨拶を軽く交わした後、ユースホステルの庭にあるベンチに腰掛けて、曇天の空を見上げながら「これで戦争が始まるねんな。」と思ったのもまた、はっきりと覚えている。旅行はその後も継続した。

あれから10年の時がたったのかと思うと個人的にも感慨を覚える。

9/11: The Day of the Attacks - Alan Taylor - In Focus - The Atlantic